旅先での出会い
掲載中の小説【真珠湾】~Lost in Seven Years~では、主人公のアメリカ人青年クリス(Christopher略Chris)が過去7年の間に目をそらし続け、悔やんでいる事にけじめをつけようと日本へ来る、というところから始まっています。休暇を楽しむ旅行であっても、ふと自分を振り返る瞬間、或いは全く予想もしなかった事に直面し、今まで考えたことの無かった何かを知る、というような経験は時に起こると思うのです。
随分前の事ですが、私がシンガポールへ友人と一緒に旅行した時、とても考えさせる体験をしました。シンガポールは想像以上に発展している近代国家で、普段、都心で忙しくしている私達にとっては、あまり安らぐ事ができませんでした。3日目位だったと思います。フェリー乗り場を見つけた私達は、行き先が離れ小島だと知り、ホテルに戻り日常使うものだけを持ってフェリーに乗ったのです。
その島には、オープンしているものの、外から見るとベランダはまだ建築中の部屋がある、という新築中のホテル一軒しかありませんでした。それでも、自然にあふれたその島がすっかり気に入った私達は、帰国するまで滞在する事にしました。
ある朝、まだ夢の中の友人をそのままに、一人で海岸を散歩しに行くと、遠朝の海の中に立ち網を引いている黒く日焼けした老人がいました。私がその作業を何とはなしに見つめていると、彼は網と小さなバケツを持って浜へ戻ってきました。
"Good morning"と、私。彼は、にっこり微笑んで"Good morning"。バケツの中には数匹の魚。今日はあまり獲れなかったのかと聞くと、その老人は、これで充分なのだと言いました。太陽と家族、それで充分、そしてその家族が必要な分だけの魚なのだと。私はひとり恥ずかしい思いをしました。もっと獲って売ればそれだけ収入になると自然に考えたうえで「今日はあまり獲れなかったの?」と尋ねたからです。
必要な分だけ。太陽と家族。それで充分だと言った老人から、私は『お金お金』の社会に生きていることを痛く感じたのでした。
その島で、もう1つ出会いがありました。滞在していたホテルは、東南アジアから出稼ぎに来ているたくさんの人達が働いていました。それも、ほぼ私達と同年代の20代前半(当時)の若い男女が多数でした。レストランで働く1人のインドネシア人の女の子、ティナと親しくなりました。私は、この島の人たちが食べに行くおいしいお店はないかと尋ねると、連れて行ってくれるというので、夕方ホテルの前で待ち合わせをしました。時間に行くと、小さなトラックの荷台に他のホテルの従業員も乗って、私達を待っていました。トラックは、道無き道をどんどん進み、誘拐されるのではないかと友人はかなり怖がっていたのも無理は無く、周りはまるでジャングルのような熱帯林でした。
すると突然、視界が開け、真っ青な海と近くに小さな艀。その先に藁の様な物でできた屋根と木で造られた囲いが見えました。トラックが止まり、ティナがあそこよと言って、みんなが次々にトラックを降りていくので、私達は「うそでしょっ!?」と思いながらもその『お店』とやらに向かったのです。
その『お店』には大きなテーブルが1つと小さな調理場。1人の男性が営んでいるようで、私達が到着するといきなり海に入って魚を獲り始めました。そして、そのまま料理が始まり、どんどん皿に盛って運んでくるのです。
見たことも無い魚の中には熱帯魚のような虹色のものまで。みんないっせいに食べ始め、私達もおずおずと口に運ぶと、これがなんとも美味。メチャクチャにおいしい。美しいサンセットを眺めながら『お店のテラス』で夕食を堪能したのでした。
帰国する朝、前夜ティナが設けてくれたパーティーですっかり夜更かしした私達はセットしたモーニングコールもまるで聞こえず、熟睡状態。いきなり部屋のドアが開き、ティナの叫ぶ声。“You gonna miss your plain”
全員飛び起きました。飛行機に乗り遅れると心配して、ティナは部屋まで起こしに来てくれたのです。ティなの側にはホテルのクロークが立っていました。
シンガポールまでフェリーで戻り、急いでホテルをチェックアウトして空港に向かい、本当にぎりぎりで搭乗に間に合いました。彼女は、ティナは、私達と同い年。彼女は出稼ぎで朝から夜まで働いて、のんきに旅行にやって来た私達に、ともかく親切でフレンドリーでした。帰りの飛行機の中で、私達は彼女や他のホテルで働く同年代の人達との交流を通して、意識はしてなくても自分たちはどこか与えられた環境に甘んじて、高慢になっているのではないかな、と話したりしていました。
今まで旅した先で、本当にいろいろな出会いがありました。小説【真珠湾】~Lost in Seven Years~のクリスもまたそんな旅になります。
バイリンガルと日本語で言うと、ちょっと実際の意味とは違って響きますが、Bilingualとはあくまで二カ国語で、という意味です。掲載中の小説は英語でも書いているので、二ヶ国語使用という意味でバイリンガル小説としています。日本文を英訳するというよりは、小説の内容を英語で書いています。これは、表現を大切にしたいと思っているためで、読者の皆さんへ英語ではこんな言い方もありますという紹介も兼ねています。
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